芝原岳彦の獺祭

一つのテーマについて小説と映画をセットにして語りたいと思います。

パンチラとシビリアン・コントロール

歴史小説で一番面白い分野は「攻城戦モノ」だろう。
防戦の目的であらゆる工学的技術を詰め込んだ城塞と、それにまつわる攻守双方の人間心理は小説の題材としてうってつけだ。


防衛側の恐怖、孤立感、味方に対する猜疑心、様々な防御施設。
攻撃側の緊張、焦燥、当時の最新技術を詰め込んだ攻城具。

そして双方に共通する要素が兵站が尽きることへの恐怖心だ。
ようするに飢えである。
戦争で一番大事なものは食べ物だ。
戦闘機やら戦車の話は二の次だ。

世界史において城塞と言えば、1453年に落城した東ローマ帝国の首都コンスタンティノープルと、1615年に陥落した大坂城が上がられる。
特に大坂城は「コンスタンティノープル以東で最大の城塞」と言われたほどの大城郭だった。

双方ともすでに小説の題材になっており、司馬遼太郎「城塞」と、塩野七生コンスタンティノープルの陥落」が名作として版が重ねられている。 

 

城塞

城塞

 

  

コンスタンティノープルの陥落 (新潮文庫)

コンスタンティノープルの陥落 (新潮文庫)

 

 

近代において籠城戦と言えば何といってもレニングラード包囲戦だろう。
世界史において最も惨たらしかった戦争である第二次世界大戦野中において、もっとも犠牲者の多かった独ソ戦の中でも、特に異常さを露呈している戦闘がこの包囲戦だ。

 

ソ連領深く進攻したドイツ軍は、ネヴァ河の河口にあるレニングラード(現在のサンクト・ペテルブルグ)を包囲し、兵糧攻めを開始した。
補給路を断たれたレニングラード市民はすぐに飢饉に落ち込み、60万人から100万人の人間が餓死したと言われている。
カニバリズムまで起こったらしい。 

レニングラード封鎖: 飢餓と非情の都市1941-44

レニングラード封鎖: 飢餓と非情の都市1941-44

 

 

大坂城コンスタンティノープルと違って、スターリングラードは落ちなかった。
欧州中央部で台頭した大権力がロシア遠征をするとことごとく失敗するようだ。


極寒のロシアにおいては、攻撃側の兵站に支障をきたすことが多いらしく、ナポレオン1世ロシア遠征も失敗している。

この歴史的事実は、様々な創作物に刺激を与え続け、多くの小説や映画が作られた。
最近ではテレビゲームもそうである。

 

最近発売されたゲームでは戦場のヴァルキュリア4」はどうやら独ソ戦がモデルのようにみえる。  

戦場のヴァルキュリア4  - PS4

戦場のヴァルキュリア4 - PS4

 

 私が家庭用ゲームの世界に戻ってきて、最初にプレイした作品がPS4版の初代「戦場のヴァルキュリア」だった。

 

どんなゲームかと言えば、4つの兵科に分かれた兵士を将棋の駒のように動かして、敵の陣地を先に占領した方が勝ちと言うシンプルなものだ。


しかしゲーム性は非常に高く、当時大変な人気になったらしい。
ただし、世界観や脚本、キャラクターデザインは良くも悪くも典型的な「和ゲー」で、リアリティーなどまったくない。

それでも根強いファンがいて、続編が創られ続けている。

今回の作品はシリーズ連番で第4作目。
プレイ時間は短めらしいので、久しぶりにテレビゲームをやってみることにした。
(以下、戦場のヴァルキュリア4」の脚本のネタバレとなります)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

舞台は架空のヨーロッパ。

ヨーロッパは実在するのに「架空のヨーロッパ」ってなんだよ?
と、つっこみたくなりますが、現実のヨーロッパをゲーム上で再現しようとすると大変なので、よく使われる手法です。

平和な連邦(たぶんフランスやイギリス)に、悪の帝国(たぶんソ連)が鉱物資源(たぶん石油)を求めて攻めてきます。
連邦の若者たち(おしゃれな大学生風)は祖国を救うために、義勇兵に志願して帝国に戦いを挑みます。

時代は20世紀の初めくらいでしょうか。
戦車や装甲車はありますが、戦闘機はないようです。
でも潜水艦や無線はあります。

時代考証はメチャクチャですが、そこに突っ込むのは野暮です。
なんたってこのシリーズは、そのハチャメチャぶりを楽しむゲームだからです。

劣勢に追い込まれた連邦側は、帝国の首都を急襲する「ノーザンクロス作戦」を立案、極寒の大地を東へ東へ進軍します。


どう考えてもナポレオン1世ロシア遠征か、ドイツのバルバロッサ作戦なのですが、兵士たちは緊張感ゼロ。
大学のサークル活動にしか見えません。

兵士たちは、ハタチ前後の若い男女たち。でっかいバズーカ砲や擲弾砲を担いで戦場を走り回っています。

それどころか、ロングヘアーミニスカートニーハイ美少女がライフル銃を構えて、極寒の戦場を駆け回るものですから、リアリティーもへったくれもありません。
それでもかまいません。
だってこういう現実感の無さを楽しむのがこのゲームだからです。


このゲームには「ミネルバ」と言う名前の若い女性士官が出てきます(士官は軍隊組織のエリート)。
このキャラクター、「さあ! わたしについて来い!」とかけ声を上げると、部下を引き連れ、ミニスカートパンチラしながら戦場を走り回ってくれます。

それだけでも頭が痛くなってくるのですが、このキャラクター、体力が低く、あっさり敵の榴弾に吹き飛ばされてひっくり返ると、股をおっぴろげてパンツ丸出しになりながら「む、無念だ……」なんて言ってくれます。

ここまでくると、製作者側がギャグでやってるんじゃないかと思えてきますが、それでもいいんです。
これはそういうゲームですから。

 

ゲームを進めていくと「ノーザンクロス作戦」の真相が明らかになります。


この作戦、実は陽動で、本当は海上ルートから、ビンランド合衆国(どう考えてもアメリ)で開発された新型爆弾(どう考えても原爆)を帝国の首都シュバルツグラードどう考えてもモスクワ)まで運び、街ごと爆破してしまおうという作戦だったのです。
民間人も女子供も殺してしまいますね。


一応主人公たちが悩む姿が描かれますが、「死んでいった仲間たちの為にも、戦争を終わらせて平和な世界を作るためにもこの作戦は必要なんだ」とかなんとか言いながら正統化してしまいます。

まるで、アメリカの右翼が「日本への原爆投下は太平洋戦争を早期に終わらせるため必要だった」と主張している様子にそっくりですね。


このあたりからだんだんついていけなくなりましたが、作戦実行直前で両国政府の間で和平条約が結ばれ戦争が終わります。

政治家や官僚が軍部の大量殺戮を防いだ形になりますね。

それでも先程のミネルバちゃん。
「爆弾を爆発させろ―! 仲間の死を無駄にするのかー!」
とわめいてくれます。

ここらで完全に白けてしまいました。

製作者様 岳彦は、もうすっかり疲れ切ってしまって、このゲームを続けられません。
何卒 お許し下さい

いや、本当にシビリアンコントロールって大事です。


ちなみにこのゲームのをやり終えた後に観た映画レニングラード 900日の包囲戦」は、レニングラード市民が飢え死にしていく様を詳細に表現しており、さっきまでやっていたゲームとの差に眩暈がしたのですが、もちろん比較する私が悪いんです。

レニングラード 900日の大包囲戦 LBX-541 [DVD]

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 いろいろ書きましたが、この「戦場のヴァルキュリア4」、ゲーム性は極めて高いです。
すでにやり込んだプレイ動画が上がり始めています。
ただ脚本や世界観が極端にアレなだけです。

だいたい、リアリティーを求めるなら、それにふさわしいゲームはたくさん出ているわけですから、パッケージの美少女を見てこのゲームを買ってしまった時点で、私の敗北なのですよ。

本当にごめんなさい。

敗北を抱きしめて 上 増補版―第二次大戦後の日本人

敗北を抱きしめて 上 増補版―第二次大戦後の日本人