「サマーウォーズ」私論
憂鬱な季節がやってきた。
夏が嫌いなわけではない。
むしろ暑さは大好きだ。
では何が苦手なのかと言えば
いわゆる「夏映画」が苦手なのだ。
今年は細田守監督の「竜とそばかすの姫」が公開されるためか「サマーウォーズ」が地上波のテレビで放送されるようだ。
思い浮かぶでしょ?
青い空・白い入道雲・制服着た美少女……
夏休みのティーンエイジャーを見込んだ映画。
中高年のノスタルジーに応える映画。
山や海の近くにある田舎がに美しく描かれ
少年少女の淡い恋愛と親戚やご近所さんとの交流が描かれる。
嫌なら見なければいいのだが、
ニュースサイトやTwitterのトレンドにとうしても入ってくので
避けようと思っても目に入ってしまう。
過去に見た「夏映画」を思い出して憂鬱な気分になり
うっかりテレビで見てしまうと、予想通りの内容で
また憂鬱になってしまう。
なんでこんなに苦手なのか。
アニメーション映画のおける田舎の描写がどうしても苦手だから。
この映画が大好きな方もいるだろうから、少し語調を変えます。
私は日本でもっとも鄙びた田舎の出身です。
田舎の悪いところも良いところも知り尽くしています。
そんな田舎を美化して表現されるとえも言われぬ不快感が腹の底から持ち上がってくるんですよ。
以下にその理由を挙げたいと思います。
①なぜ「夏」なのか?
「となりのトトロ」「思い出ぽろぽろ」そして「サマーウォーズ」
みんな夏の田舎が舞台です。
古い民家が残っていて、明るく風通しの良い家からは青い空や白い雲が見えますね。
確かに夏の田舎はそうですよ。
美しくて清々しいです。
広くて爽やかです。
だから映画で夏が描かれるのでしょう。
でも疑問に思ったことありませんか?
他の季節はどうだろうかと。
実は田舎の家って夏以外は地獄なんですよ。
特に晩秋から春の終わりくらいまでは本当に辛いんです。
なぜかと言うとそのひどい暗さ。
田舎にある昔ながらの家には「サマーウォーズ」の座敷を見ればわかるように壁があまりありません。
では春秋冬はどうするかと言うと、雨戸を締め切って壁がわりにするんです。
もちろん光は入ってきません。
人間は光に当たらないとうつ状態になりやすいのはよく知られています。
夏以外の田舎は、陰鬱な暮らしを強いられるのですよ。
②雇用の不利さ
東京のような大都市と違って田舎は仕事が少ないです。
地方大学の学生が持つ共通の悩みが、就職先の少なさですね。
そのため夜行バスで東京や大阪までいって面接を受けるとまた夜行バスで帰ってくる学生はたくさんいます。
大変な金銭的負担です。
「サマーウォーズ」の中には公務員がたくさん出てきますね。
警察官・消防署員・自衛官など。
この点を指摘して「体制的」と言い表した評論家がいましたが、そうではありません。
田舎は職が少ないのです。
若者が安定した収入と生活を得て、家庭を持とうと思ったら公務員一択です。
身分保証の強さと社会的な信頼の点から言って、中小企業はよりずっと安定した人生が送れます。
映画「空の青さを知る人よ」でも、両親を亡くした高校生の女の子は妹を育てるために市役所に就職していました。
特に雇用の調整弁になりやすい女性の就職先としては、正規の公務員が理想でしょう。
③重い人間関係
この種類の映画では人とのつながりや助け合いが賞賛されるのですが、
そのためには強い共同体を維持しなければなりません。
要するに血族団体です。
そのためには冠婚葬祭が必要です。
あの手の儀礼は決して非合理的なものではなく、共同体を維持するためにみなで作業をして一体感を高める明確で合理的な目的があるのですよ。
これは日本だけではなく、アメリカやヨーロッパでも「配偶者の親戚と過ごすクリスマスが苦痛」と思ってる人は多いのではないでしょうか。
共同体はいざというさい助け合える代わりに、自分の時間やお金をある程度は差し出さなければなりません。
社会保障のために税金を払うのと同じです。
自己主張を抑えて我慢もしなければなりません。
特に女性は親戚たちの集まりで「おさんど」「おさんどん」と呼ばれる無償の労働をやらざるを得ず
それで気の病になってしまう人も多いようです。
これに耐えるくらいなら、都市で孤独な生活をした方が良いと考える人も多いでしょう。
定期的に都市部への流入者が増える現実がそれを裏付けています。
https://www.mlit.go.jp/common/001042017.pdf
④軽視されるはぐれ者
「簡単に言えば 大じいちゃんの妾の子」
侘助のことです。
この時代に妾なんて言葉を聞くとは思わなかったですが、現代風に言えば「非嫡出子」ですね。
婚姻していない男女の間に生まれた子供のことで、長いこと相続の分配で差別されてきましたが、
2013年になってやっと、「非嫡出子」の相続について定めた民法に対して違憲判決が出ました。
「サマーウォーズ」が2009年の映画ですから、このことに関係者が気づかなかったとは思えません。
しかもこの非嫡出子は愚かな技術者として描かれます。
ちょっと差別に鈍感じゃないでしょうか。
⑤政界のフィクサー
頼りがいのあるおばあちゃんとして描かれる陣内栄。
日本中が大パニックになっている時、あちこちに電話をかけています。
国土交通省・消防庁・警視総監
どれも関係省庁や行政のトップですね。
じつはこれ、とんでもない問題行為なんですよ。
行政は法律や条例で定められた行為を実行するための組織で、国会議員や都道府県知事、官僚が責任者ですね。
問題があれば議会や国会で追及され、責任を取ります。
ところがこのおばあちゃんは、国民から選ばれた政治家でもなく、権限と責任が法律で明確に定められた官僚でもありません。
ただの民間人です。
こういう人物が個人的人脈で公的な権力にアクセスできてしまうのは大問題なんですよ。
公的な立場の人間なら法律の縛りや議会の監視があります。
ところが私的な人間にはそれがない。
やり放題です。
憲法上の制約も法律による規制もない。
飲食店に銀行経由で圧力をかけ、大バッシングを受けた大臣がいましたが、ああいう権力の暴走を止められるのは
「選挙で選ばれた国会議員で大臣」だからです。
フィクサーはどんな暴走をしても誰も止められません。
だいだい知り合いに警視総監がいたからってその人を「すごい!」なんて思いますか?
なにか感覚がずれてますよ。
一番の問題は、消費される田舎と田舎の人々。
「サマーウォーズ」に出てくる田舎はおそらく群馬県か長野県でしょう。
「山も問屋も工場も 何ひとつ きれいさっぱり残ってないんだから」と言うセリフが示すように
今は雇用も厳しいのでしょう。
そのなかであれほど大きな家屋敷を維持していくのは大変でしょう。
田舎で暮らしている人々にはきつい負担があるはずです。
しかし都市部で生活している親戚たちはそれを負うことをせず、最も過ごしやすい夏だけ田舎にやってきてはバイキングのように田舎の社会資本を浪費して帰って行きます。
自分の住んでいる土地や街に対して、何も背負っていない人間が信頼できるでしょうか。
税金逃れのために所在地を次々と変える企業。
落ち目の街をすてて次々と住む場所を変える人間。
税金が安くて住み良い街や国は、そこの住人が汗と血を流して創り上げたのですよ。
みんなが自分のコミュニティになんの貢献もせず、土地を渡り歩いていたら世界中いまだに荒野でしょう。
私もいま住む街に大きな貢献はできていません。
何かしら消費する側ではなく、貢献できる側に回りたいと考えています。